公開日 2019年01月28日 | 更新日 2019年01月28日

京都大学

脳病態生理学講座(精神医学)

長い歴史を持ち、多様性に富んだ自由闊達な教室

当教室は1903年に創設された、110年以上の長い歴史を持つ教室です。教室の先人らは、時代時代に課せられた要請・課題のなかで、精神医学という巨大な山塊と多種多様なアプローチで格闘してきました。「多様性」と「自主性」は当教室が最も重視するところで、私たちは自らを、ちょっと大げさですが「精神医学京都学派」と呼び、その精神を今日まで継承しています。

医局情報

診療科 精神科
専門分野 精神医学
症例・
手術数
難治性精神疾患、身体合併症、救急症例を含む精神科領域
関連病院

当院

関連病院

教室の魅力

現教授の私が入局した1990年代からは、精神医学にも脳科学が本格的に導入されるようになりました。そのような世界的潮流のなかで、従来は多数派であった人文社会系の関心・バックグラウンドを持った医師に加え、自然科学への志向性の強い医師も当教室に集まるようになっています。

平均入局者は毎年7~10名と、決して規模の大きな教室ではありませんが、独自の感性や志向性を持った方を積極的に受け入れてきた結果、多様性と個性の豊かさにおいて、全国的にも抜きんでた教室となっています。

教育体制・キャリアパス(専門医及び学位の取得)

1.研修の流れ

後期研修(来年度以降は新専門医制度研究期間)では、3年間かけて京都・大阪近辺の関連病院および京都大学医学部附属病院で臨床実習を行います。3年間の研修先は各人の希望も聴き柔軟に調整していますが、京都大学医学部附属病院で1年間研修、2年目~3年目は総合病院と精神科病院で1年ずつ回るのが代表的なパターンです。

つまり、入局者の多くにとって京大病院が精神科医としての最初の勤務地となるわけですが、京都大学医学部附属病院精神科神経科の最大の特徴は、大学病院としては「ハードな」臨床を行っている点です。

精神科病棟は病床数60の閉鎖病棟で、保護室が8床、観察室4床を有しています。この施設の特性を生かして「精神科救急」患者も積極的に受け入れています。そのため医療保護入院・措置入院者の割合が多いことが特徴です。また、京大病院の他診療科からの紹介などで重症身体合併症を持つ症例の割合も多いことも特徴です。

一般に大学病院精神科の場合、その教室の研究領域などと関連して入院患者の疾患が特定の疾患領域に偏ることもあるのですが、当教室の場合には、どのような疾患領域であっても原則対応しているため、入院患者の構成が、たとえば、うつ病や統合失調症に大幅に偏っているということがありません。

このような状況であるため、修練医(専攻医)にとっては、大学病院で研修を行う1年はかなり多忙となります。しかしながら、1年の研修期間を終えるころには、結果として精神科医にとって重要な資格となる精神保健指定医や専門医の取得要件となる精神疾患を、7割程度は経験することができることになります。

資格要件よりもっと重要なことは、上級医の指導の下、初年度から一筋縄ではいかない症例を経験することです。次年度に関連病院に着任する頃には、単独でもほぼすべての疾患の治療にあたることができるほどの自信がついていることになります。

2.キャリアパス

事情を知らない方は、さまざまな専門分野がある内科などと比べると、精神科のキャリアパスの出口は狭いと感じているかもしれません。ところが、精神科のキャリアパスは意外なほど広いのです。

精神科医のキャリアとして代表的なイメージは、精神科病院に勤務し時間をかけて長期入院の患者さんを治療する、というものでしょう。しかし、最近は精神疾患それ自体に加えて身体の病気を抱えた患者さんを診療する機会が著しく増えてきました。

こうしたことから、総合病院精神科における精神科医のニーズはますます高まっており、たとえば緩和ケアなど、精神科と他診療科の境界領域で勤務する精神科医も増えてきています。

また精神鑑定業務など司法の領域でも精神科医の役割は大きく、当教室の入局者でも司法領域の仕事に関心を持つようになり、裁判所、刑務所、少年院などに就職した方も多数います。また、心理療法に関心の強い教室員のなかには、文系大学の心理学部の教官になるというキャリアを選ぶ者もいます。

誰でも医師になりたての頃は、自分が本当のところどういう仕事に向いているのかわかりません。大学卒業時は内視鏡の技術を磨きたいと考えていた消化器内科志望の医師が、実際に実技をしてみて不向きだと気づく場合もあるでしょう。精神科の場合も同様に、もともと興味のあった分野に挑戦して違和感を覚えることもあるのですが、幸い、精神科は活躍の場のバリエーションが大きいため、精神科にとどまりながら仕事の内容を大きく方向転換をすることが可能なのです。

医師自身もその人生のなかで、人生のさまざまな「危機」に遭遇します。出産や子育て、親の介護、自分自身の病気などをきっかけに、仕事に対する考え方が変わることもあります。当教室では、そのような事態が起こった場合でも、ポジティブな意味での方向転換を誰もができるよう、教室全体としてのサポートを心がけています。

3.論文・研究実績

MRIでの画像診断による神経画像研究が、当教室の研究の中核です。

MRIは応用範囲の広い神経画像技術です。機能的MRIという手法を用いれば、特定の心理機能に対応する脳の領域を描出することができます。さらには、さまざまな精神疾患でその機能がどのように変化しているかを視覚化することも可能です。一方で、MRIは脳の構造や各領域の神経連絡を描出することができます。拡散画像というMRI画像技術は特に日進月歩であり、精神疾患や精神症状の基盤となる神経ネットワークの構造を可視化することができます。

こうした神経画像研究を軸として、実験心理学、分子遺伝学その他の研究手法を組み合わせ、精神疾患の病態を研究していくところが当教室の特徴です。対象疾患も、統合失調症、うつ病、外傷性脳損傷、摂食障害、行動嗜癖、自閉スペクトラム症など、精神疾患の広範囲に及んでいます。

今日、精神医学のような応用科学の分野では、研究の成功には他分野の研究者との効果的な共同研究が欠かせません。当教室は、医学研究科内の関連診療科(神経内科、脳神経外科)との連携はもとより、京都大学内外の他学部(心理学、経済学、工学など)との共同研究を日常的に行っています。京都大学は総合大学であり、医学部を含むほとんどの学部が同一敷地内にあります。このことは、研究者同士がいつでもface-to-faceで議論できるという意味で、大きな利点となっています(実際に研究をしてみないとわかりづらいのですが、IT化の時代であっても、face-to-faceは研究の成功にとって本当に大切なことです)。

4.留学

当教室からは海外留学者もコンスタントに送り出しています。留学のタイミングとしては、大学院を修了し、研究者として独り立ちする一歩前の場合が多いです。私自身もドイツに2年半留学した経験がありますが、留学は高い水準の研究の機会を得るというだけでなく、異文化に触れ思考の幅を広げるという意味で、人生経験としてかけがえのないものとなります。留学は、日本での臨床活動をいったん中断するなど大きな決断を要しますが、人生は一度限りです。幸いにも医師という職業は、人生の半ばで一定期間海外生活をすることが社会的に許容された職業です。せっかくそういう職業を選んだわけですから、リスクや不安はあるとしても、思い切って一度海外に出てみようと決意した希望者には、教室としてもできる限りの応援をしています。

医局の構成

所属医師 13名(教授1名、准教授1名、講師2名、院内講師1名、助教9名)
専門医

10名

男女比

7:3

所属医師の
主な出身大学

京都大学、東京医科歯科大学、滋賀医科大学、神戸大学、徳島大学

同大学出身者と
他大学出身者の比率

3:7

スタッフ構成、男女比

現在(2017年8月)時点での指導医レベルのスタッフ数は教授1名、准教授1名、講師2名、院内講師1名、助教9名で、これら13名のスタッフを中心に臨床・研究・教育を行っています。

臨床は、特に病棟業務に関しては、卒後3年目の修練医(来年度から新専門医制度がスタートすれば専攻医)約7名が主力となり、指導医の指導の下、初期研修医と共に診療にあたっています。

研究は大学院生が約20名、研究員が10~20名在籍していますが、彼らの多くは卒後8~10年目の、精神科医として中堅になりつつある時期に相当します。

入局者の男女比は7:3、スタッフ13名のうち3名が女性です。また精神科では、多様な勤務形態の勤務先があります。そのため、出産や育児などのライフイベントに伴いフルタイムでの勤務が難しくなっても、そのことが本人のキャリアパスにとってマイナスになるわけでなく、それはそれでまた新しい勤務経験をするきっかけともなります。そうした意味で、精神科はそもそも女性にとって働きやすい環境であるといえますし、当教室でも、女性入局者を大いに歓迎しています(男性ももちろん歓迎しています)。

出身大学・入局までのキャリア

出身大学は多様で、現在の当教室のスタッフ13名の半数以上は他大学出身です。関西の大学出身の教室員が多いものの、東日本を含む全国から毎年入局希望者が訪れています。

また、一般企業や他の診療科の勤務を経て入局した者が多いことも当教室の特徴です。この10年間の間に、哲学、心理学、工学など他学部卒のバックグラウンドを持った医師も多数入局しました。ユニークなキャリアを経た医師らは、高卒・医学部入学・精神科医という普通のキャリアを辿った医師にとっても、研究においては斬新な発想を得るうえでの刺激となり、臨床においては診療場面でのよき相談相手となってくれています。

所属医師のインタビュー

研修生へのメッセージ

医師は社会的責任の重い職業ですから、入局者には当然ながら、医師としての使命感、情熱、チームワークを大切にする心を持ってほしいと思っています。しかし、そうした基本的な条件を満たす方であれば、過去の経歴、出身大学、性別、年齢などは関係なく、幅広く入局の門を開いています。何事にも好奇心があり、挑戦意欲にあふれる方は、当教室の自由闊達な雰囲気のもとで、その力を存分に発揮いただけるものと考えています。
仕事・労働ということに関して、最後に少し、私自身の独自の考え方を皆様にお伝えしておきたいと思います。
ワークライフバランスという言葉を耳にする機会が増えてきました。仕事一辺倒でなくプライベートな時間を十分に確保しバランスのとれた人生を目指す、という考え方です。しかしながら、ワークとライフは必ずしも対立するものではなく、理想的な状況においてはシームレスに同じ方向を向くということがありうるのではと私は考えています。そして精神科医という仕事はそれを可能としてくれる職種ではないかと考えているのです。
当教室では、アフター5に毎日のようにさまざまな読書会、研究会、勉強会、講演会が開催されています。そのなかには、研究に直結したものや、実践的な心理療法を学ぶものもありますが、哲学論文の購読のように臨床・研究に直結しないものもあれば、さらにはサブカルチャー評論(精神医学的な観点からの)といったものまで含まれます。
もちろんこうした会への参加は自由意思であり、大学内外の関係者が各人の興味や関心にあうものに参加しています。会の後には酒の入る懇親の場を設けることも多く、そうした場では、研究会のテーマについてはほどほどに、臨床のコツ・極意が、先輩医師から後輩医師に引き継がれます。われわれにとってこうした活動は、仕事とも趣味とも線引きすることができません。なぜなら、それは自分の好奇心に基づいて行っている楽しみのひとつだからです。
もちろん、ストレス解消のため、精神医学のことはすっかり忘れた休暇を取ることも重要です。ただ、専門職である医師にとっては、仕事と趣味がシームレスにつながったときにこそ、人生の豊かさを体感できるのではないでしょうか。そしてそういう経験を現実的なものとしてくれるのが、精神科医という職業なのです。風変わりな意見かもしれませんが、若手医師の方々には、心のどこかにこのことをとどめていただければ嬉しいです。

京都大学の情報

住所:京都府京都市左京区聖護院川原町54

電話:075-751-3111

公式HP:http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/

メディカルノートで病院詳細を見る

この医局の情報をインタビューさせて頂いた先生

京都大学大学院医学研究科 教授 脳病態生理学講座 精神医学教室

村井 俊哉 先生

マックス・プランク認知神経科学研究所を経て、現在は京都大学脳病態生理学講座、精神医学教室において教授を務める。神経心理学、神経画像学におけるトップランナーであると共に、これからの精神医学のあり方に対しても多数の著書を持つオピニオンリーダー。これからの精神科医は生物学、心理学、社会学を単純に組み合わせるだけでなく個々において最適化していくべきであるという多元主義を提唱している。