公開日 2018年12月11日 | 更新日 2018年12月11日

名古屋市立大学

精神・認知・行動医学分野

臨床に根ざした実践的な教室

名古屋市立大学精神科と聞いて、あなたはどのようなイメージを持ちますか?私たちは、積み重ねてきた臨床の伝統の上に、現代の世界標準の精神科臨床を目指しています。古くは木村敏先生・中井久夫先生、そして古川壽亮前教授、さらに現在の明智龍男教授のもとに研鑽の場を求めて日本各地から臨床医が集う、そのような臨床の教室です。
大学の精神科教室は基礎研究に重きを置くところが多いですが、私たちの教室は、臨床を確実に前に進めていくための臨床研究と、次世代を育成する臨床教育に力を入れています。
臨床研究から得られた様々な知見を活かし、目の前の患者さんをサポートする臨床技術を皆で高めていく。名古屋市立大学精神科は、臨床の伝統と現代の精神医療を融合させた実践的な教室です。
研究テーマは
・サイコオンコロジー・緩和ケア
・精神療法(中でも認知行動療法・対人関係療法など)
・児童精神医学
・老年精神医学
・社会・地域精神医学
・臨床精神薬理学
となっており、臨床精神医学を幅広くカバーしています。
中でも、コンサルテーションリエゾン精神医学・サイコオンコロジー・緩和ケアの研究グループは、この分野で我が国を代表する一人である明智龍男教授のもとで、臨床に直結する知見を数多く発表しています。
また、当教室では伝統的に精神療法が盛んであり、現在は、新世代認知行動療法を含むさまざまな認知行動療法、対人関係療法の臨床家が集っています。

医局情報

診療科 精神科
専門分野 精神・認知・行動医学分野
症例・
手術数
うつ病、不安障害、児童思春期症例、摂食障害、統合失調症、双極性障害、認知症など多数。難治性うつ病に対する修正型電気痙攣療法、難治性統合失調症に対するクロザピン治療なども実施。
関連病院

当院

関連病院

充実した研究グループ ー 専門分野

当教室は精神・認知・行動医学の各分野を幅広く学べる点が特徴です。

近年、統合失調症や双極性障害といった従来の精神疾患のほか、発達障害やPTSD、身体疾患に伴ううつや不安障害、高齢者の認知症やせん妄といった領域にも精神科医が求められています。

つまり、現代の精神科医はただ精神「疾患」だけを診ればいいのでなく、広く様々な角度から患者さんの「こころ」全体を診ることが必要なのです。

「こころ」を診るために、当教室では以下の臨床研究グループを設けて日々臨床と研究を行い、実践的な臨床の力を身につけられるシステムをつくっています。

研究グループ

  • 児童精神医学研究会
  • 認知行動療法研究会(精神療法グループ)
  • 対人関係療法研究会
  • コンサルテーションリエゾン・サイコオンコロジー・緩和ケア研究会
  • 老年精神医学・高次脳機能・神経心理グループ
  • 脳画像研究グループ
  • 社会と地域のメンタルヘルス研究会(社会・地域精神医学グループ)
  • 臨床精神神経薬理グループ

教育体制・キャリアパス(専門医及び学位の取得)

1.よき精神科医を育てるための精神科専攻医プログラムの基幹施設として充実した指導体制のもとでのトレーニング

2018年度から開始された専攻医プログラムにおいて、当教室は「名古屋市立大学病院精神科専攻医プログラム」の基幹施設になっています。本プログラムは20施設以上から構成され、専攻医のニーズに応じた多様な研修パターンが可能です。一般的には、1~2年目を研修基幹病院である名古屋市立大学病院で、3年目を精神科無床総合病院と単科精神科病院、または有床総合病院で研修します。3年間の精神科臨床研鑽の結果として、精神科専門医と精神保健指定医を取得できるよう指導します。このようにして、本プログラムの目標である「真の精神科専門医としてのhelping professional」を目指します。

大学病院における研修では、大学病院ならではの豊富な講義や面接・精神療法のトレーニングを行っている点も、当教室そして本プログラムの特徴です。特に、精神療法や患者さんとの良好な治療関係を築くためのトレーニングを重視しています。支持的コミュニケーションの理解、ロールプレイを行う「精神療法トレーニング」などがこれにあたります。

加えて、コンサルテーションリエゾンチーム、緩和ケアチームでチーム医療に従事するトレーニングもあり、この際に、臨床心理士(公認心理師)、看護師、薬剤師、理学療法士などと互いの専門性を磨きながら多職種連携医療を経験することができます。コンサルテーションリエゾンチームと緩和ケアチームでは、合わせて全入院患者さんの10%以上を常時診療しており、非常に多くの経験を積むことができます。

現在の精神科診療では操作的診断が標準ですが、それはあくまでも精神科治療を行う際の指針にすぎません。真の精神科診療では、適切に薬物療法を提供できることに加え、精神療法をしっかりと行って罹患の経緯や症状の継続について知ることが大切です。患者さんの病気だけでなく、彼らの生活や人間関係まで把握しなければ精神療法はできません。だからこそ患者さんとの関係構築が重要なのです。

精神科臨床の一番の基本、それは患者さんとの治療関係です。患者と医師の間に信頼関係がなければ、患者さんはそもそも症状や悩みを十分表すことができず、適切な診断・治療に至りません。精神疾患はその症状が医師-患者関係に影響するという点で、身体疾患とは大きく異なります。OSCEレベル、一般診療科に求められるレベルよりはるかに深く、共感に基づいた安定した治療同盟を築くには、専門的技量が必要です。

精神科の面接技量の習得は、外科系の手術技量の習得と似ているところがあります。座学では学ぶことができず、指導医の面接を見学し、自分の面接の指導(スーパービジョン)を繰り返し受けることが必要なのです。当教室には精神療法(認知行動療法、対人関係療法など)、コンサルテーションリエゾン、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、緩和医療、家族心理教育、児童精神医学、認知症、てんかん、電気けいれん療法などの臨床を専門とする指導医が多数在籍し、そのような機会が豊富にあります。また、半年ごとに指導医が交代する研修システムを採用しており、複数のエキスパートから学ぶことができます。このような手厚い体制で精神科臨床の基本を習得できる専門研修は全国をみわたしてもそんなに多くはないと自負しています。

2.臨床医・研究者それぞれを目指せる研修内容とキャリアパス

前述のように当教室が基幹施設となっている専攻医プログラムでは、精神科専門医と精神保健指定医を取得できます。

専攻医プログラム

精神科専門医と精神保健指定医の取得を目指す専攻医プログラムです。「信頼できる精神科医を育てる」ことをモットーに、20以上の関連施設による充実した教育・研修環境と優秀なスタッフをもって資格取得をサポートします。

精神医療の最も大きなやりがいは「患者さんの人生全体に関わることができる」という点ではないでしょうか。私たちは、単に診断し薬を処方するのではなく、病の背景に存在する複雑な疾患形成・維持過程である「フォーミュレーション」を立て、エビデンスも活用して、患者さんの生きる力を支える専門医を育てます。医を学び、術を身につけ、患者さんを支える道を一緒に歩みませんか。手前味噌ですが、当教室の研修プログラムを終えて精神科専門医になった医師は、人物と臨床能力を兼ね備えていると大変良い評価を頂いています。

当教室が掲げる専門医研修の目標は以下のとおりです。

  • 患者さんとの治療関係(治療同盟)を築く
  • 患者さんの人生全体を考えて診療する(Formulation-based approach)
  • エビデンスを重視して診療する(Evidence-based approach)
  • 世界標準の症候学・診断学・治療学を学ぶ
  • 基本を丁寧に学び、エキスパートを目指す
  • 最先端の精神科臨床・臨床研究に触れる

専門医研修修了後のキャリアパスは、大きく臨床コースと臨床研究コースにわけられます。

臨床コースでは、専攻医プログラム終了後、精神科の臨床医として単科の精神科病院や総合病院の精神科、診療所などで勤務します。そのほか、産業医や行政職への道もあります。

臨床研究コースでは、精神療法やサイコオンコロジー・緩和医療、児童精神医学などのサブスペシャリティの領域を磨きつつ、主として大学院で研究を行い、臨床・研究双方のエキスパートを目指します。大学院を卒業したあとは当教室のスタッフとして名古屋市立大学病院に勤務しながら専門分野の臨床と臨床研究を続ける、関連施設での勤務、海外留学などの道があります。

大学院での教育プログラム

優れた臨床医になるという観点からも、私たちは将来的に研究者を目指していない方にも広く大学院への進学を勧めています。実際、臨床の現場に出ると日々答えのない疑問に遭遇することが多々あります。これらの疑問に可能な限り科学的に、そして患者さんの視点で応えていくことのできる医師になるために、一時期、研究に没頭するのは極めて有用な経験だと考えています。大学院では、専門分野の知識を持った臨床医、博士号取得を目標として臨床研究に励みます。神経科学などの基礎研究に従事したい方は本学医学研究科の基礎医学の講座で学ぶことも可能です。なお、専攻医プログラムと大学院プログラムを兼ねることも可能です。

大学院の4年間での目標は、臨床研究の実践、英文論文の発表、学位取得、そして高度な医療技術の修得の4点です。過去5年間、大学院修了者の学位取得率は100%の実績を誇っています。

大学院での教育は、大きく大学院プログラムと、先述した各研究グループでの取り組みから成り立ちます。

大学院プログラムは、全大学院生を対象とし、従事する研究内容にかかわらず必要となる研究に関する総論的理解、例えば臨床研究デザインや医学研究に必要な統計学などについて学びます。これらに加え、大学院生が自分の研究や研究における問題点についてプレゼンし、問題の解決方略について全体でディスカッションを行う研究相談の時間や、科研費の獲得方法や論文の書き方などについて学びます。

各研究グループでの取り組みは研究グループによって異なりますが、研究テーマの選定、研究フィールドの準備、研究計画の作成・実施、 論文・学会発表指導などについて個別的な指導を行います。専門的な臨床カンファレンスを行うグループもあります。

大学院プログラムの年間予定については以下をご覧ください。

年間予定:http://ncupsychiatry.com/ncup/

また在学中、卒業後の留学も可能です。

大学院修了後は、当教室での臨床・臨床研究の継続、あるいは関連病院での専門を生かした勤務などがキャリアパスとして挙げられます。

3.総合病院から単科病院、診療所まで幅広い―関連病院

20を超える関連病院のなかには、総合病院から精神科の単科病院、診療所まであり、それぞれの施設で求められる精神科医としての技術を学ぶことができます。将来、大病院に勤務したい医師も診療所で勤務したい医師も、それぞれの方が必要とする臨床経験・臨床技術に合わせた関連病院で働くことが可能です。

現在、精神科のニーズは高まっているにもかかわらず、総合病院の精神科を中心に精神科医が不足している状態です。各地の精神科診療を守るため、多くの関連病院に当教室から医師を派遣しています。

  • 名古屋市立東部医療センター
  • 名古屋市立西部医療センター
  • 協立総合病院
  • 名古屋第二赤十字病院
  • 公立陶生病院
  • 名古屋市 精神保健福祉センター
  • 名古屋市 児童福祉センター
  • あいせい紀年病院*
  • 楠メンタルホスピタル*
  • 笠寺精治寮病院*
  • 精治寮病院*
  • 松蔭病院*
  • 八事病院*
  • 南生協よってって横町 メンタルクリニックみなみ
  • 豊川市民病院*
  • 厚生連 稲沢厚生病院※*
  • 厚生連 海南病院
  • 豊田西病院*
  • みどりの風 南知多病院*
  • 岐阜病院*
  • 聖十字病院*
  • 聖隷浜松病院
  • 三方原病院*
  • 三重県立 小児心療センターあすなろ学園
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 国立がん研究センター東病院

(*は精神保健指定医の取得のために必要な症例を担当することが可能な病院)

4.留学先―アメリカ、イギリス、カナダなど

希望者は、大学院在学中や卒業後に留学することが可能です。留学実績としては以下が挙げられます。

  • グラスゴー大学
  • ニューカッスル大学健康行動研究センター
  • ノッティンガム大学
  • サウサンプトン大学
  • Institute of psychiatry
  • ボストン大学
  • MD Andersonがんセンター
  • マクマスター大学

医局の構成

所属医師 28名
専門医

スタッフ12名はすべて精神科専門医

男女比

22:6

所属医師の
主な出身大学

名古屋市立大学、山形大学、群馬大学、山梨大学、信州大学、金沢医大学、福井大学、藤田医科大学、三重大学、大阪大学、奈良県立医科大学、広島大学、香川大学、長崎大学、宮崎大学、琉球大学

同大学出身者と
他大学出身者の比率

1:2 程度と他学出身者も多い

多彩なメンバーで世界標準の医療を目指す―医局の構成・男女比

当教室には、2018年度時点で28名の教室員が在籍しています。うち、男性22名、女性6名の構成です。

出身大学は名古屋市立大学のほか、山形大、群馬大、山梨大、信州大、金沢医大、福井大、藤田医科大、三重大、大阪大、奈良医大、広島大、香川大、長崎大、宮崎大、琉球大となっており、多彩なメンバーで日々臨床と研究、そして教育に励んでいます。

メンバーのなかには他科の診療を経験してから我々精神科の門を叩いた医師もおり、多様性にあふれた教室になっています。

様々なバックグラウンドを持つ医師が集まっているので、巷のような学閥が存在せず、とても明るい雰囲気です。広く門戸を開いており、全員が世界標準の精神医療を目指して専門を究めることができます。

研修生へのメッセージ

臨床が好きで一流の精神科医を目指す医師は当教室へ

私たちの教室は1943年に開かれて以来、臨床と臨床研究を第一に進めてきました。こうした伝統があることから、臨床が好きで、臨床の腕を磨くための研究をしたいという方には最良の環境を整えています。
精神科医には、患者さんのすべてを受け止め、ときには長い時間をかけてじっくりと患者さんと向き合うことが求められます。患者さんとじっくり向き合う医療を面白いと感じ、「よき」精神科医になりたい方は、ぜひ当教室で学んでみませんか。

この医局の情報をインタビューさせて頂いた先生

名古屋市立大学病院 こころの医療センター センター長、 名古屋市立大学病院 緩和ケアセンター センター長 名古屋市立大学病院副病院長 名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授

明智 龍男 先生

日本のサイコオンコロジー(精神腫瘍学)分野の第一線で臨床・研究にあたる精神腫瘍医。名古屋市立大学病院緩和ケア部部長、こころの医療センターセンター長。一般社団法人日本サイコオンコロジー学会代表理事。 日々多くのがん患者さんの心のケアを中心に診療にあたる。モットーは患者さんやそのご家族に根ざした「2.5人称の医療」。 臨床医としての顔を持つ一方で名古屋市立大学大学院医学研究科教授として、サイコオンコロジーを心得た臨床医の育成にも尽力している。