公開日 2018年11月05日 | 更新日 2018年11月05日

秋田大学

脳神経外科学講座

県内唯一の医育機関として、地域医療を担う

秋田大学は県内唯一の医育機関です。そのため当教室は脳神経外科医の育成・研究はもちろんのこと、秋田県にある脳神経外科の70〜80%が関連病院であり、地域医療とも密接に結びつき、臨床の現場で多くの医師が活躍しています。臨床も研究も行える脳神経外科医の育成のために当教室では、幅の広い治療を自らが行える医師の育成に従事しています。

医局情報

診療科 脳神経外科
専門分野 脳神経外科
症例・
手術数
脳腫瘍手術91件、血管障害の手術78件(2017年)
関連病院

当院

関連病院

専門分野

脳神経外科医として総合的な知識と技量が手に入る

当教室の教育の特徴は1人の医師が脳腫瘍も、脳血管障害も治療できるよう総合的な知識や技量を身につけられるところです。これは秋田県のように医師の数が必ずしも十分でない地域では、より多くの疾患を専門的に診ることができる医師が求められるからです。

このような医師を育成するため、当教室では2017年には診療グループの改変も行いました。以前は当教室でも脳腫瘍グループ、脳血管障害グループといったように、医師をそれぞれのグループに分け、それぞれに特化した診療・教育を行って、若手は両グループを数か月ごとにローテーションしていました。しかし、2017年以降はそれらのグループを混合し、脳腫瘍と脳血管障害をバランスよく診療できるグループを2つ作ることで、医局員が総合的に脳神経外科疾患を診ることができるよう工夫しています。

もちろん、このような診療を経験していくなかで、研究としては1つの分野を徹底的に極めたいという希望を持つ方もいます。その際には留学なども視野に入れ、その医師の希望にあった環境の整備に協力しています。

次に当教室の大まかな分野別の特色をご紹介します。

脳腫瘍

脳腫瘍は、罹患率は十万人に数人と決して多くはない疾患ですが、1人1人の治療方法がかなり複雑で、多角的な治療が必要な疾患です。手術・放射線治療・化学療法を効果的に組み合わせて治療を行うためには、治療方針を定める医師にかなり専門的な知識が必要となります。

当教室はいわば秋田県の脳腫瘍のセンター病院として患者さんを一挙に集め、集中的に治療を行っています。その数は、手術だけでも年間91件です。また、小児科との協力体制に恵まれているため、小児の脳腫瘍治療にも力を入れているところが特徴です。また、転移性脳腫瘍や再発腫瘍に対する定位放射線治療も年間140例ほど施行しています。

当教室の脳腫瘍手術の最大の特徴は、当大学の医学部と工学部が協力し開発した「迅速免疫診断」の活用です。脳腫瘍の手術では、腹部の腫瘍の手術と同じく、手術中に病変を採取し、その場で迅速病理診断を行って病変の悪性度や腫瘍の性質を把握し、切除範囲を再度考察します。免疫診断とは、迅速病理診断よりも更に詳しく病変の悪性度や腫瘍の性質をみることのできる装置です。

通常免疫診断には、結果が出るまでに何時間もの時間がかかります。しかし、当大学が開発した迅速免疫診断の装置では30分程度で細胞や抗体の詳しい情報がわかるため、急を要する脳外科手術中でも詳しい情報がすぐに手に入ります。

現在、迅速免疫診断の装置は市販化され、全国の医療機関で徐々に広まってきていますが、当大学はその開発元であったということもあり、すでに臨床・研究どちらの現場でも日常的に活用されています。

昨年WHOの脳腫瘍分類が改定されましたが、中心的役割を果たしたハイデルベルク大学に1年半留学して勉強してきた医師を中心に、今後さらに発展させていきたいと考えています。

脳血管障害

脳血管障害には、脳の血管内にカテーテル等の医療機器を挿入して行う脳血管内治療、頭蓋骨を大きく切り開き行う開頭手術と、大きく分けて2つの治療方法があります。2017年の実績は、脳動脈瘤(破裂 + 未破裂)41件で、24件が開頭手術、17件が血管内手術でした。その他、脳梗塞に対するCSAやバイパス術、急性期血栓回収術などを行なっています。

もともと秋田県には脳血管障害の血管内治療をできる医療機関が数か所しかありませんでしたが、2014年に私が着任し、現在少しずつ医師を育成しているところです。関連病院である由利組合総合病院脳神経外科などと連携し、患者さんが必要なときにすぐに治療が受けられるような環境を整えています。

脳血管障害は脳梗塞、くも膜下出血など、専門の医師のもとへ運ぶ猶予がないくらい治療に急を要することもしばしばあります。そのため、当教室では自分の務める医療現場に脳血管障害の方が運び込まれた際、すぐに治療ができるよう、1人の医師が開頭・血管内どちらの治療も行えるよう指導しています。患者さんにとってベストな治療方法を選択できるように、医師同士が患者さんの情報を共有し意見を出し合って治療方法を決めています。常に三手先まで見越して治療を行うことで、医師が慌てることなく治療を行うことができます。

2018年5月には、当科の講師として脳卒中の内科的診断・治療に精通した神経内科医を迎え、脳卒中包括医療センターを大学病院内に立ち上げました。脳卒中内科を目指す研修医、専攻医が研修しやすい体制を整えています。

放射線治療

当大学は定位放射線治療装置「ノバリス」を有し、転移性腫瘍や脳腫瘍の放射線治療を行っています。また、症例数は少ないのですが脳動静脈奇形(AVM)も年間数例ほど治療しています。

教育体制・キャリアパス(専門医及び学位の取得)

1.研修の流れ

まずはジェネラルな脳神経外科医を育成、その後専門を深める

初期研修を終え、医学部卒業後3年目に当教室に入局した医師は、まず4年ほどジェネラルな脳神経外科医としての知識を身に付けます。大学病院や関連病院で研修をしながら、最初に目指すのは脳神経外科専門医と学位の取得です。

専門や自らの興味関心によって選択肢が別れるのは、医学部卒業後7年目以降です。脳腫瘍分野に興味のある方は、手術の腕を磨くために解剖の勉強をしたり、がん治療専門医の取得を目指したりします。一方で脳血管障害分野に興味のある方は脳血管内治療の専門医取得や、開頭手術の手技の学習に力を注ぎます。

また、なかにはてんかんなど、少し分野の違った疾患に興味を持つ医師もいます。当教室内で学べる分野であれば教室内で、もしより専門性の高い場所で学びたい場合には留学なども検討できるように環境を整えています。

2.学位・専門医の取得

脳神経外科専門医、学位は原則推奨

当教室では原則として、脳神経外科専門医と学位の取得を推奨しています。また、専門医取得に意欲がある医師の場合には、脳神経外科専門医の他に下記のような専門医資格を取得する方もいます。

脳神経外科医が取得する専門医資格一例

  • 血管内脳外科専門医・指導医
  • 脳卒中の外科技術認定医・指導医
  • 脳卒中専門医
  • がん治療専門医(脳腫瘍)
  • 小児脳神経外科専門医
  • てんかん専門医 など

3.留学

ドイツなどへの海外留学のほか、国内留学も

当教室では、留学を希望する医師がそれをかなえられるよう、積極的に支援しています。なぜなら留学によって新しい経験をしたり、たくさんの人と出会い、意見を交わしたりすることは、医師としても研究者としても非常に大切なことだと考えているからです。

国外ですと2017年にはドイツのハイデルベルク大学で1年半脳腫瘍の病理について学んだ医師がちょうど大学に戻ってまいりました。今後学んだことを活かし、病理と臨床を結びつけてくれるよう、教室内でのさらなる活躍に期待しています。

国内では、私の出身校でもある東北大学脳神経外科への国内留学などを研究、臨床両面で行っています。

4.関連病院

秋田県内の脳神経外科のうち、73%が関連病院

秋田大学は県内唯一の医育機関であり、秋田県にある15の脳神経外科のうち、11 (73%)は当教室の関連病院です。代表的な関連病院は下記の通りです。

主な関連病院

  • 中通総合病院脳神経外科
  • 平鹿総合病院脳神経外科
  • 大曲厚生医療センター脳神経外科
  • 秋田厚生医療センター脳神経外科
  • 由利組合総合病院脳神経外科
  • 市立角館総合病院脳神経外科
  • 大館市立総合病院脳神経外科
  • 雄勝中央病院脳神経外科
  • 東北大学大学院医学系研究科神経外科学分野
  • 北里大学医学部脳神経外科
  • 秋田県立脳血管研究センター脳神経外科
  • 秋田労災病院脳神経外科
  • 市立秋田総合病院脳神経外科
  • 余目病院脳神経外科 など

5.論文・研究実績

他大学とも交流し、協力し合いながら行う研究

当教室では教室内だけで完結させようとせず、あらゆる現場で活躍している医師と協力した研究を熱心に行っています。さまざまな意見や環境を持つ医師がディスカッションしながら研究を行うことで、より広がりのある研究を行うことができると考えているからです。そのため、現在も留学先などで知り合った医師や他大学の教室と協力して研究にあたっています。

6.キャリアパス

指導者がそれぞれの医師のレベルをみて、任せる手術を判断

当教室は関連病院を含め優秀な指導医を持ち、若手医師の育成に貢献しています。特に当教室では指導者が医局員の技術をよくみて、医師の成長度合いに合わせ手術の担当を決めています。そのため学年にのみとらわれることなく、さまざまな手術が任されるようになります。

一方、外科医は1件1件の手術によって成長していきますが、修行中の医師だからといって合併症を引き起こすなど患者さんにとって悪い結果を起こしてはなりません。そのため指導者は、「今日はここまで」と若手の医師に任せる治療の線引きをしっかり行い、結果の担保にも尽力しています。

2018年4月には、後期研修医3名が仲間に加わりましたが、うち2名は女性です。女性が働きやすい環境を構築することが全国的に求められていますが、当科も率先して取り組んでいます。

手術のみに特化せず、脳卒中の内科的治療、リハビリなどにも関わる日本の脳神経外科は多様なキャリアパスを包含できる点でそうした取り組みがしやすい領域と考えています。

医局の構成

所属医師 11名
専門医

脳神経外科専門医6名、神経内科専門医1名、がん治療暫定認定医2名

男女比

9:2

所属医師の
主な出身大学

秋田大学、東北大学、京都府立医科大学など

同大学出身者と
他大学出身者の比率

9:2

秋田県出身者が多い

当教室は2018年現在、秋田大学医局勤務が11名です。同門は70名ほどで、秋田県内外で活躍しています。現在は秋田大学出身の医師が多く、他大学出身者は大学所属の10名中では2名ですが、他学自学関係なくさまざまな大学の医師が集まることで風通しがよくなると考えているため、学閥意識なく入局を歓迎しています。

現在女性の医局員は3名です。脳神経外科はもともと女性医師があまり多くはない診療科ですが、診断や治療もダイナミックに変化してきているため、近年は女性医師からの関心が高まってきているように感じます。脳の不思議さ、手術の細かい作業や脳の美しさに魅せられて、今後脳神経外科医を志す女性医師が増えてくれることを期待しており、女性医師が働きやすい環境を整えていきたいと考えています。

研修生へのメッセージ

心身ともに健康であれば脳神経外科医として成長できる

脳神経外科は手術が複雑で難しく、「大変な診療科」というイメージがついて回ります。実際、手術は困難を極め、特に当教室のように1人の医師が幅広い治療を行えるようになるためには、本人の相当な努力が必要なのはいうまでもありません。
しかし、私が脳神経外科医にとって一番必要だと思うのは、手先の器用さや頭のよさではなく、深い意味での心身の健康です。特に心の健康はその人の成長を大きく左右します。物事をまっすぐ素直に受け止められて、周りの医師や患者さんとうまく協調のできる方は、成長も早く、臨床も研究もしっかり行っていくことができます。当教室では心身共に健康な脳外科医として活躍を望む方を心よりお待ちしています。

この医局の情報をインタビューさせて頂いた先生

秋田大学 大学院医学系研究科 脳神経外科講座 教授

清水 宏明 先生

1986年東北大学医学部卒業。2014年より秋田大学大学院脳神経外科学講座教授。