脳へのリスペクトを感じずにはいられない

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脳へのリスペクトを感じずにはいられない

チームプレーで地域の医療を守る清水宏明先生のストーリー

秋田大学 大学院医学系研究科 脳神経外科講座 教授
清水 宏明 先生

生命の神秘に魅せられて

私は幼い頃から生命に非常に興味を惹かれていました。人間を含む動物や植物はなぜ生命を育み、調和しているのだろう。自然はどうしてこんなにも偉大なのだろう。そんな気持ちを常に抱えていました。

医学部を志すようになったのは高校生の頃でした。幼い頃から関心のあった「生命」に関わる仕事がしたい。漠然とした思いから医学部への入学を考えるようになりました。とはいえ、実は学部選択にはずいぶん迷いました。文系にも興味があるし、生命に関わる学部として理学部の生物学科も気になる。しかし、自分に適性があるのはどちらかといえば医学だと考え、東北大学の医学部に入学しました。

脳神経外科を診療科に選んだのは、なんといっても脳の不思議さに惹かれたからです。人間の行為、思想の源である脳。その不思議さを少しでも解き明かしたいという思いから脳神経外科医の道を選びました。

外科医としての成長の原動力は「怖さ」や「心配」と「想像力」

東北大学医学部卒業後、私はそのまま東北大学脳神経外科学講座へ入局し、外科医としての技術を磨きました。他の外科診療科も同じだとは思いますが、脳神経外科の手術は非常に細かい作業が多く、一歩間違えば命や患者さんの術後の生活に支障をきたしてしまいます。ですから、医師は特に慎重に手術に取り組みます。

初めての手術はどんな医師でも緊張し、怖さや心配を感じます。この「怖い」「心配」という気持ちこそ、想像力を喚起し医師の成長に不可欠なのではないかと考えています。

私は手術でも、薬物療法でも、診断でも、「本当にこれで大丈夫だろうか」「他にもっとよい方法はないのだろうか」といつも自問自答することこそ、外科医として、医師として成長する鍵だと思っています。たとえば手術手順を想像し、不明な点があれば先輩医師や技術のある医師の手技を見学したり、相談したりする。あるいは論文を読みこんで、さまざまなケースに備える。想像力を駆使してどこが怖いか、心配かを考え、可能な限りそれらの不安に対処し、そして手術に臨む。手術中にも、自分がしている操作がどのような影響を脳に及ぼしうるかいつも想像し、心配し、未然に危険を回避する。このプロセスを通して、外科医は一段一段成長のステップを登っていきます。この予習と実践の積み上げこそが、外科医の成長なのではないでしょうか。

ちょうどスポーツや楽器が上達していくのと同じように、少しずつ成長していくためには「怖い」「心配」と感じる心が、いつまでも必要なのだと思います。

周りと協力してどんな医療を作っていくか

東北大学脳神経外科学講座での経験は今の私を臨床・研究、そして後進の指導というさまざまな面で支えてくれているように思います。教室の先輩方は皆個性的で刺激的でした。叱られることも多々ありましたが、叱ったあとには必ず気遣い、フォローしてくれる先輩方の姿に愛を感じました。そんな先輩方の姿をみて、医学の世界は自分の技量を磨くことももちろん大切だけれど、他の医師と協力したり、後進の医師をどう育てていくかを考えながら指導に当たったりすることも、とても大切であると感じたものです。

長年医療の現場に携わってきて、私はつくづく医療とは医師一人で完結しない、チームプレーが必須の世界だと感じています。私達外科医もさまざまな手術を通じて一歩一歩成長していきますが、人間なので一人の力ではやはり限界があります。

自分にできないことは周りの医師を頼り、そして自分にできることはどんどん協力して患者さんを診ていくこと、それこそが大切だと感じています。それには、今、自分のできることを正しく把握し、自分の技量をわきまえることが大切で、この能力も医師の大切な素養だと思います。

個人的な印象ですが、医師は一生懸命になりすぎると「私が患者さんを治してやる!」という思いが強くなる傾向があります。しかし患者さんのことを考えれば、実は早々と自分の手から放し、専門性のあった医師に紹介するほうがよい結果を生むケースもたくさんあります。「もっと早く紹介してくれればよかったのに」と自分が思ったり、また逆に自分が患者さんを他の先生に紹介した際に同様のことを思われたりすることがないよう、患者中心に行動していきたいと常に思っています。

チーム医療を成し遂げるためには医師同士の出会いとネットワークが必要

また、チーム医療を実現するには医師同士のネットワークを堅固にし、困ったときに相談できる環境を作っておくことも大切です。専門性があり信頼できる仲間をたくさん作ることで自分自身も学びや刺激を得られるだけでなく、結果的に患者さんにもよい医療を提供できるはずです。そういった意味でもさまざまな病院で研修を積んだり、留学などで違った環境で研究を行い、たくさんの医師と出会ったりすることは非常に大切なのではないでしょうか。

先ほど、医療をスポーツや楽器の上達と結びつけましたが、医療にはそれらと違うことが 1つあります。それは医療の場合、結果が悪くて困るのは自分ではなく患者さんであるということです。その分、医師には他人の命を背負う責任があります。だからこそ、できないことは他の医師の協力を仰ぎ、チームプレーで患者さんを守る責務があるのです。

脳に対するリスペクトを胸に

先にお話ししたように、私は生命や脳の不思議を解き明かしたいという気持ちで医療の世界に入りました。しかし、知れば知るほど脳は奥深く、秋田大学の教授となった今でも高校生だったあの頃の私と同じくらい、わからないことだらけです。

たしかに近年脳神経外科領域は診断などにおいて進歩していますが、わかればわかるほど、次々にわからないことが増えていくのです。「脳ってすごい」という脳に対するリスペクトを募らせずにはいられません。

おそらく人の体には、いつまでもたっても不思議さがあり続けるでしょう。これから先も、生命の不思議さ、自然へのリスペクトを感じつつ、頑張っていきたいと思います。

 

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  • 秋田大学 大学院医学系研究科 脳神経外科講座 教授

    1986年東北大学医学部卒業。2014年より秋田大学大学院脳神経外科学講座教授。

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