公開日 2019年02月05日 | 更新日 2019年02月05日
熊本大学腎臓内科学
腎臓に関係する幅広い疾患を対象とする
熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学(熊本大学医学部附属病院 腎臓内科)は、腎臓病全般はもちろんのこと、腎臓に関係する他領域の疾患を含め、幅広い診療活動を行っています。
狭義の腎臓病としての腎炎・ネフローゼ症候群、慢性・急性腎不全、尿細管疾患を中心に、高血圧症、水・電解質代謝異常、さらに他領域の疾患に伴う種々の腎機能障害(AKIないしCKD)を対象疾患としています。結果的に、内科全般はいうまでもなく、外科・産科・小児科領域や救急疾患を含んで、多岐にわたる豊富な経験と幅広い知識を得ることができます。
【腎臓内科で診療する主な対象疾患】
・腎疾患全般(糸球体腎炎〈急性・慢性・急速進行性〉、ネフローゼ症候群、急性・慢性腎不全、腎硬化症、間質性腎炎、尿細管疾患、嚢胞腎、遺伝性腎炎、高血圧症、水・電解質代謝異常)
・循環器疾患(急性・慢性心不全、腎動脈狭窄症、心腎症候群)
・呼吸器疾患(肺水腫、サルコイドーシス、血管炎、肺腎症候群)
・消化器疾患(肝炎ウイルス関連腎症〈HCV腎症、HBV腎症〉、肝腎症候群)
・血液疾患(多発性骨髄腫、アミロイドーシス、血栓性微小血管症〈TTP/HUS〉)
・神経疾患(アミロイドーシス、ギラン・バレー症候群)
・内分泌・代謝疾患(糖尿病性腎症、痛風腎、肥満関連腎症、原発性アルドステロン症、副甲状腺機能亢進症)
・アレルギー・膠原病(ループス腎炎、強皮症腎クリーゼ、血管炎、紫斑病性腎炎、シェーグレン症候群)
・産科疾患(妊娠高血圧腎症)
・小児科疾患(Alport症候群、Fabry病、腎炎・ネフローゼ、先天性腎疾患)
・救急疾患(急性腎障害、ショック、薬物中毒)
医局情報
診療科 | 腎臓内科 |
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専門分野 | 腎臓内科学 |
症例・ 手術数 |
症例数:350人/年程度(入院患者)、手術数:50人/年程度(内シャント作製術) |
関連病院 |
当院 関連病院 |
診療・教育・研究の3本柱すべてに情熱を注ぐ
当教室は、診療において患者さん本位の安全安心で質の高い医療を提供するのはもちろん、教室員への専門的な教育に基づく優れた医療人の育成、そして臨床応用を見据えた学術的かつ独創性の高い研究の実践に力を注いでいます。最大の特徴は、診療・教育・研究の3本の柱すべてにおいて、皆が一丸となって活動していることでしょう。
診療
腎疾患全般はもちろん、腎臓に関係する他領域の疾患を含めた幅広い疾患を対象としながら、専門家としての病態に根差した診断と治療戦略、およびエビデンスに基づいた質の高い治療を実践しています。
腎生検診断は当科で年50~60例、関連病院からの標本を含めると年150~200例程度行っており、透析導入(血液透析・腹膜透析)は年30~40例で推移しています。また、複数領域にまたがる病態や未診断疾患の場合には、腎臓だけでなく、総合内科的視点からの臨床推論と診療を心がけています。さらに、多くの教室員が地域での透析医療や専門診療・一般内科診療に携わりながら、地域医療に貢献しています。
教育
卒前教育の診療参加型臨床実習では、指導医・研修医とチームを組んで屋根瓦式教育を基本とし、病態から診断・治療へとつながるアプローチのなかで、腎臓の大切さを教えています。
卒後教育では、初期研修医に対して腎臓内科の幅広さと面白さ、腎臓内科的視点の重要性を教えています。専攻医に対しては、定期的なレクチャー・抄読会を通した専門的知識の学習、実技指導を通しての腎臓領域におけるスキルの確実な修得とともに、症例に対して文献的考察や最新の知見の収集を促し、専門医取得に向けての教育と学会発表・症例報告の指導を行っています。この間、研究マインドを涵養しつつ個々の適性と希望を重視しながら、それぞれのキャリア形成支援を行います。
専攻医の約半数は大学院へと進学しますが、4年間の研究生活では国内・国際学会での研究成果発表、論文発表から学位取得まで、研究指導医(PI)のきめ細かな指導を受けます。
研究
教室では大きく4つの研究グループに分かれて活動しています。
生活習慣病関連腎症グループ(桒原Dr、早田Dr、水本Dr)
糖尿病性腎症を中心にmetabolic kidney diseaseの発症・進展機序解明と創薬を目指した研究を行っています。
尿細管グループ(泉Dr、中山Dr、井上Dr)
集合管の作用を中心に尿濃縮と尿酸性化の分子機序解明、および病態との関係を研究しています。
高血圧・腎疾患・プロテアーゼグループ(柿添Dr、安達Dr)
蛋白尿発症、CKD進展におけるプロテアーゼの役割解明とともに、高血圧・腎疾患への治療応用を目指した研究を行っています。
CKD病態解析グループ(森永Dr)
慢性炎症から臓器線維化への分子機序解明を目指した研究を行っています。
これらの中心となる研究手法は、臨床の知見をヒントに動物実験で検証し、臨床に還元する、いわゆる橋渡し研究(translational research)です。これらに加えて、教室では関連施設と共同して複数の臨床介入試験を企画、推進しています。
教室の魅力
腎臓内科は究極の総合内科 ― 内科全般の幅広い知識・経験が身につく
当教室では、腎臓病全般とともに、腎臓に関係する幅広い疾患を対象に診療しています。腎臓病は二次性に数多くの疾患を引き起こすと同時に、血液疾患、膠原病、内分泌・代謝疾患、循環器疾患、消化器疾患などが原因となって腎臓病になることも少なくありません。さらに、高血圧、水・電解質代謝異常、酸・塩基平衡異常も腎臓内科領域に含まれます。すなわち、腎臓内科の診療を通して内科全般、医学全般の幅広い知識・経験を身につけることが可能です。
腎臓内科は女性が働きやすい場 ― 適切なワークライフバランスを提供する
腎臓内科は一般に医師の勤務時間が安定していること、死亡に至る重篤な症例や救急症例が比較的少ないことから、女性が働きやすい部門です。また、腎臓内科は腎生検による病理診断、血液・尿バイオマーカーからの鑑別診断など、検査医学的側面が多くあり、その専門性の高さからも女性に人気があります。
当教室では、結婚や出産、育児、配偶者の異動などあらゆるライフイベントに応じて、一時的な休職や時短勤務、勤務地選択などを考慮し、柔軟に働けるよう配慮しています。熊本大学病院には併設の保育園が完備され、子育てと両立して働くことが可能です。実際、当教室には全体の3割ほど女性が在籍していますが、結婚・出産などを経て継続的に活躍しています。
教室の発展は多様性から ― 臨床にも研究にも「遊び心」を大切に
当教室は「よく学び、よく遊べ」をポリシーに、自由でかつ和気藹々とした雰囲気の中で活動しています。
臨床ではとりわけ主治医団の結束は固く、救急時の診療の助け合いと随時行われる慰労会は特に大切にしています。研究においても、グループ間に壁はなく実験手技の修得や協力が得られ、自由な意見交換から解決の糸口が見えることもあります。毎月2回ほど行われる教室主宰の研究会では、学外からお呼びした講師の先生と講演後の交流を特に重視し、楽しいディスカッションが若手の刺激にもなっています。また、毎年恒例の医局旅行では、夏に一泊で主に温泉地を旅行します。これまでに阿蘇や天草、人吉などを訪れました。
阿蘇の散策
阿蘇での夕食時風景(写真上段中央:向山先生)
人吉での夕食時風景(写真下段中央:向山先生)
教育体制・キャリアパス(専門医及び学位の取得)
1.研修の流れ
初期臨床研修:多様な患者さんの診療から腎臓内科の考え方を身につける
当教室の研修では、腎臓病全般はもちろん、腎臓に関係する幅広い領域で患者さんを診療します。特に、腎臓と他臓器との関連(臓器連関)から、全身の病態における腎臓の重要性を学ぶことができます。
代表的疾患として、腎炎・ネフローゼ症候群の症例を担当した場合、病態・データからの鑑別、腎生検による確定診断、治療の流れをきちんと研修します。また、急性腎不全・慢性腎不全の症例では、原疾患の鑑別、透析治療の適応と療法選択に関する知識を修得し、カテーテル挿入の手技を学ぶことも可能です。この間、降圧薬やステロイド、免疫抑制剤など、腎臓領域における薬剤の使用法に関して十分にマスターすることができます。
専攻医研修:腎臓内科医としてのスキルを確実に修得する
当教室では、医師3~5年目(後期研修医・専攻医)に、腎臓内科医に必要な処置・手術手技を修得するためのトレーニングを行います。1年目は大学病院で、2~3年目はおもに関連病院で行います。
トレーニングでは、主治医団(大学では3人体制)で患者さんの診療にあたります。専攻医が患者さんを担当し、上級医と指導医(助教以上、または部長)が指導にあたります。
トレーニング初期には腎生検および血液浄化法の手技を学び、レベルに応じて徐々に、内シャント造設術、経皮的シャント血管拡張術(PTA)、腹膜透析カテーテル挿入術などを修得していきます。この間、上級医の指導のもと、腎臓内科医として必要な知識と考え方が十分に身につくと同時に、国内・国際学会発表、症例報告などを通して、よりlogicalでscientificな考え方が修得できます。
2.専門医・学位の取得
内科専門医と腎臓専門医・透析専門医の並行研修が可能
当教室では内科専門医の取得を必須としており、医師5年修了時(専攻医修了時)に受験資格を得、6年目で取得が可能です。さらに、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本高血圧学会における専門医取得が可能であり、それぞれ最短で医師7年目以降に取得することを目指して指導にあたります。
大学院では在学中に学位を取得できるよう指導
当教室では専攻医の約半数が大学院に進学します。
大学院への進学を希望する教室員については、専攻医修了に引き続いて入学し、4年間の研究で筆頭論文として研究成果を1~2本英文誌に発表して学位(医学博士)を取得するのが一般的なコースです。
早く研究の道に進みたい場合は、専攻医の最終年に入学することも可能です。大学院1年目の前半には毎週の抄読会が当たります。研究テーマは各自の希望と研究指導医(PI)との相談で決まりますが、研究の進め方、学会発表から論文執筆まで、PIによるきめ細かな指導を受けます。
3.留学
留学を希望する場合には国内外問わず積極的に支援する
近年、専門医制度が重要視されていることから、専門医取得を優先する傾向が強まりつつあります。また、国内の研究レベルが向上し、必ずしも海外留学を必要としないケースも増えてきました。そのような流れのなかで、海外留学を希望する教室員はやや減少しています。しかし、留学によって高いレベルの学問および異なる文化に触れる経験は何事にも代えがたく、可能な限り留学を勧めています。
現在、数名の教室員が長期短期の国内留学(東京大学、京都大学、虎ノ門病院など)をしています。もちろん、海外留学の必要性や希望があれば、積極的に支援します。
4.キャリアパス
当教室は、診療・教育・研究の3本柱すべてに力を注いでいます。そのため、入局後の経験・学びをもとに自身のキャリアを見極め、それぞれに合った道を歩むことができます。多くの教室員は、入局して数年経つ頃には、それぞれの適性や進路が明確になったり、研究心が芽生えて大学院に進学したりします。
当教室では、毎年秋に個人面談で1人1人それぞれの希望を聞き、翌年以降の活動に反映させる機会を設けています。できる限り本人の意思を尊重し、迷うときにはアドバイスを交えながら、教室員それぞれの生き方・キャリアパスをともに考えます。
医局の構成
所属医師 | 64名 |
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専門医 | 腎臓専門医、透析専門医とも30名程度 |
男女比 | 46 : 18 |
所属医師の 主な出身大学 |
熊本大学、京都大学、東京医科歯科大学、三重大学、宮崎大学、鹿児島大学、金沢大学、久留米大学、佐賀大学、大分大学、長崎大学 |
同大学出身者と 他大学出身者の比率 |
2:1~3:1 |
当教室には、全体で60~70名ほどのメンバーが在籍しています。その約半数が学内教室員として大学内にスタッフ、医員ないし大学院生・研究生として在籍し、残り半数は関連病院で勤務しています。
学内の教室員は、スタッフ(診療・教育・研究を行う)10名、臨床グループ(医員・専攻医)10名、大学院生10~15名の構成となっています。週1回の医局会と抄読会・研究発表で自由闊達な意見交換と情報共有を行っています。
診療においては特に専門グループを作らず、基本的にはすべての教室員が腎臓内科の全般的な診療に携わります。スタッフ・上級医・専攻医または研修医、という組み合わせで主治医団を構成し、毎週の病棟カンファレンス・全体回診で診断・病態に関する議論、治療方針決定を行います。
卒業大学
熊本大学、京都大学、東京医科歯科大学、三重大学、宮崎大学、鹿児島大学、金沢大学、久留米大学、佐賀大学、大分大学、長崎大学 など
関連病院/教室員派遣先施設
- 国立病院機構熊本医療センター
- 熊本市民病院
- 済生会熊本病院
- 熊本中央病院
- 熊本赤十字病院
- くまもと森都総合病院
- 熊本総合病院
- 荒尾市民病院
- 公立玉名中央病院
- 大牟田天領病院
- 菊池群市医師会立病院
など
研修生へのメッセージ
この医局の情報をインタビューさせて頂いた先生
熊本大学 大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野 教授
向山 政志 先生
1983年に京都大学医学部医学科を卒業後、内科研修。1986年に同学大学院医学研究科内科系専攻に入学し、医学博士の学位取得。1991年からスタンフォード大学医学部心臓血管研究所に留学。帰国後、京都大学医学部附属病院、京都大学大学院医学研究科を経て、2014年より現職。腎臓病学、内分泌学、高血圧、心血管内分泌代謝学を専門とし、特に腎疾患における循環調節ホルモンの意義とtranslational research、創薬への応用において第一線の研究を行う。