公開日 2018年11月05日 | 更新日 2018年11月05日
千葉大学千葉大学医学部附属病院 脳神経内科
教室の概要
当教室は「明るく・楽しく実りある教室」をモットーに、日々研究と臨床に励んでいる教室です。教室員は30代が中心で、臨床では正確な解剖学的診断と先進治療を、研究は基礎研究のみならず医師主導治験を重点的に患者さんに還元できる臨床研究を目指しています。
医局情報
診療科 | 神経内科 |
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専門分野 | 脳神経内科学 |
症例・ 手術数 |
新規患者数 1800名/年 入院患者数 480名/年 |
関連病院 |
当院 関連病院 |
幅広い専門分野を持ち、頭のてっぺんからつま先までを診療
脳神経内科というと、神経難病や希少疾患のイメージが強く持たれがちですが、実際の脳神経内科は非常に守備範囲の広い診療科です。
脳卒中やアルツハイマー病をはじめ、パーキンソン病、てんかん、糖尿病性神経障害、圧迫性神経障害など、神経系に関係する全疾患の合計患者人口は約1,000万人を超えると考えられており、診療範囲も脳から脊髄、筋肉と全身に至ります。
つまり、脳神経内科では単一臓器だけではなく、頭のてっぺんからつま先までをみる力が求められるのです。神経系は機能分化が進んでいることから、一部の障害であっても何らかの症状が生じますので、患者さんからお話を聞くことだけで診断に到達することができますし、そうあるべきと考えて弛まない努力をしています。
当教室では、患者さんから詳細に症状を聞くことで得られる情報から、「脳のこの場所が障害されるとこうした症状が出る」という知識を基に、どの部分が障害を受けているのかを推理する力を身につけることができるように若い医師を教育しています(解剖学的診断といいます)。これが脳神経内科の診療の強みであり、当教室でトレーニングを受けることで、病歴のみでほとんどの脳神経内科疾患を推測・診断できるような脳神経内科へ成長することができます。
当教室では、すべての教室員がその域に達せるよう研修制度を整えて教育を行っています。
教育体制・キャリアパス(専門医及び学位の取得)
1.研修の流れ
当教室では、病歴をきくだけで90%の症例の診断をつけられる脳神経内科医になることを目標に教育を行っています。脳神経内科にとって、検査や診察所見はあくまでも確認手段です。頭のなかで診断がついてから、検査という手段を用いて最終的な確認を行います。
病歴から診断を行うには?実際の考え方
たとえば「右手が動かしにくい」という症状を訴える患者さんがいらしたとします。それが麻痺によって生じているとする場合、麻痺を引き起こす病気が右手に存在するとは限りません。右手の麻痺を起こす原因が起こっている場所は左脳、脊髄、右末梢神経など、さまざまな部位が考えられます。そこから、手のどの部分まで麻痺があるか、麻痺は足にも生じているのか、反対側の手の状態はどうなっているのかなどを正確に聞いていくことで、どこに疾患が潜んでいるかを絞り込み診断していくのです。
こうしたポイントを診療のなかで聞くことができれば、神経疾患の9割は問診だけで診断できるのです。専門医になるまでに、頭のなかで診断することができるスキルを身につけていただきたいと考えて臨床教育を行っています。
研修の一環として行われるプレゼンテーションと研究発表会
若手医師の方々には、診断に至るまでの思考過程の段階からプレゼンテーションを行っていただきます。このトレーニングによって、検査なしでの診療のみで、どれだけ患者さんのことを理解できているかを回診などで確認します。検査前の段階で診断ができていれば、非常に効率的に治療へと進めます。またこれができる医師は臨床的なセンスがよいと判断されます。
年に4回程度のペースで、研究を始めたばかりの大学院生と研究が終盤に差し掛かっている大学院生をそれぞれ数名集め、各自の研究進捗についての発表会を実施しています。研究を始めたばかりの大学院生は、しっかりと研究計画が立てられているか、研究が終わりに近づいている大学院生は、どのように結果をまとめるかを共有します。
研修中は一般的な疾患と希少疾患の診療をバランスよく行う
当教室では、臨床・研究・教育の3つをバランスよく行いたいと考えています。
第一に脳神経内科は臨床科であり、地域医療の担い手でもあります。2017年現在、日本は脳神経内科専門医が不足しており、必要な医師数は現状の8,000人の2倍程度(16,000人以上)といわれています。ですから私たちは、ぜひ若手医師のみなさんに、次世代の脳神経内科を先導するリーダーになっていただきたいのです。
そのためには、一般的な疾患と希少疾患の双方をみられる力が必要であり、地域医療をしっかりと学んで一通りの神経疾患を経験しなければなりません。当教室の外来には、年間1,800名以上の新患患者が来院します。そのうちの10%は県外から来られる患者さんであり、全国各地から頭痛から希少疾患まで、さまざまな疾患をお持ちの方がいらっしゃるので、当教室で研修を受けることで幅広い症例を学ぶことが可能です。
2.キャリアパス
当教室の場合、卒後6年目に大学院入学、7年目に専門医を取得し、臨床研修と学位研究を経て、9年目で大学院を卒業する時点で、臨床医あるいは研究医として一人前の脳神経内科医となるプログラムが標準的です。しっかりと学べば、9年目以降には研究グループのトップとして、1人でひとつの研究チームを主催するくらいに成長することができます。
3.論文・研究実績
研究では神経画像、電気生理学、免疫学、分子・細胞生物学、プロテオミクスなどの集学的手法を用いて、新しい治療法を開発することを意識しています。
通常の臨床研究はもちろん、希少疾患に対する医師主導治験も当教室の重視する研究テーマです。近年では、「POEMS症候群に対するサリドマイド療法」、「重症ギラン・バレー症候群に対する抗補体C5モノクローナル抗体療法」の治験を完遂しています。
研究グループ一覧
- パーキンソン病・運動障害
- 神経免疫疾患
- 運動ニューロン疾患
- 末梢神経疾患
- 自律神経疾患
- 認知症
- 遺伝性神経筋疾患
- 神経放射線
- 泌尿神経学
参考:http://www.m.chiba-u.ac.jp/dept/neurol/research/group/
このように研究内容が脳から筋肉まで、そして一般的な疾患から難病までバラエティーに飛んでいることが特徴であり、研究グループのうち、2つ以上を手掛けている教室員もいます。
基礎研究・臨床研究を問わず最も大事なことは、いかに患者さんに還元できるかを第一に考えることです。基礎研究の場合でも、得た結果を臨床に生かすという観点からみると、目指すゴールは臨床研究と同じです。研究の目的には、真実の解明と、研究結果を出口(臨床の世界)に持っていくことのふたつが挙げられます。
我々は後者を重視しており、基礎研究の場合にも、病態を悪化させる経路・物質を発見して、それに対する薬物療法を用いて介入し病態を改善していくことを目標にしています。
4.臨床研究における治験(医師主導治験)の推進
当教室は、臨床研究の最大の出口は治験であるとの強い思いから、特に医師主導治験を積極的に行っています。
治験とは薬事承認(保険収載)を取得するために行う臨床試験のことです。医師主導治験とは製薬会社ではなく、医師が中心となり、薬剤師や治験コーディネーターなどと協力して行う治験のことです。
かつては治験を行う権限は製薬会社にしかありませんでした。しかし、希少疾患に使用される薬剤は、保険診療が認められたとしても購入される頻度が少なく採算が取りにくいため、希少疾患に対する治験を行う製薬会社が徐々に少なくなってきてしまったのです。
そこで2004年に薬事法が改正され、医師が企画し、中心となって治験を行えるようになりました。これが医師主導治験です。
詳細:https://medicalnote.jp/contents/170612-007-FO
それまで治験は企業主導で行っていたので、患者数の少ない希少疾患の治療に関する治験はあまり実績がありませんでした。しかし、医師主導治験であれば、希少疾患の治験を積極的に推進することができます。
医師主導治験を進めるにあたっては、治験計画書や標準業務書、統計解析計画書など、非常に細かい計画を自分たちで立てる必要があります。企業治験と同じ厳密性が求められますので、必ず前もって決めていた事項に沿って治験を進めていかなければなりません。ここが治験の難しいところです。
治験のデータがすべて集まってからは最初に立てておいた統計解析書に沿って専門グループが解析を行い、我々は解析には加わりません。バイアスを排除して客観的な解析結果を得るためです(GCP基準)。
医師主導治験においても、このような厳密なプロトコルにのっとり進めることが求められるのです。だからこそ、最初の段階で治験の計画をしっかりと立て、その研究内容が治療として実現できるシーズ(種)であるかを予測しなければなりません。
真実を追究するための研究はもちろん必要です。しかし、みなさんが一生懸命に行った研究が新しい治療として実現できれば、それはさらによい研究となりますし、論文実績にもつながります。実際、臨床研究のなかでも治験はかなり価値が高いとされているのです。
ですから当教室では、若手医師にも医師主導治験に積極的に参加し、将来さらなる治験を進めていってほしいと考えます。
医局の構成
所属医師 | 108名 |
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専門医 | 日本神経学会専門医 88名 |
男女比 | 78:30 |
所属医師の 主な出身大学 |
千葉大学 |
同大学出身者と 他大学出身者の比率 |
1:1 |
研修生へのメッセージ
この医局の情報をインタビューさせて頂いた先生
千葉大学 脳神経内科 教授
桑原 聡 先生
脳神経内科が専門の医師であり、脳、脊髄、末梢神経、筋など広汎な神経系を冒す多数の疾患について診療・教育・研究を進め成果を上げている。特に免疫性神経疾患を専門としており、全国各地から難治例が紹介されている。クロウ・フカセ症候群、ギラン・バレー症候群の医師主導治験を推進し新規治療法の開発を推進している。