患者さんを大切にする臨床医でありたい

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患者さんを大切にする臨床医でありたい

3人の恩師との出会いを大切に進む相澤仁志先生のストーリー

東京医科大学 神経学分野 主任教授
相澤 仁志 先生

研究マインドを持った臨床医を目指してほしい

私は、1人の医師であると共に、次世代の医師の教育を担う東京医科大学・神経内科学分野の教授という立場でもあります。私が教授を務める教室員たちは、研究マインドを持った臨床医であってほしいと願っています。

というのも、患者さんとしっかり向き合うことで見えてきた疑問点・問題点が研究につながり、そして、医療の進歩につながると私は恩師から学びましたし、私もそう確信しているからです。

一方、研究は地道ですし、苦労の連続です。それを知っている臨床医なのか、知らない臨床医なのかは、医師としての成長の度合いに大きな差が生じます。新しい治療法をただ行うのではなく、その背景にある研究の過程をしっかりと理解することで、患者さんに対してもより責任感を持って治療にあたることができると私は考えています。

私の医師としての根幹になっている3人の恩師の教え

私は今までの医師人生のなかで3人の恩師と出会いました。この3人の恩師の言葉や姿勢から学んだことによって、現在の医師としての私が作られているといっても過言ではありません。

患者さんが真実を教えてくれる 臨床の大切さを教えてくれた恩師

1人目の恩師は、井上聖啓先生で私に臨床に対する考え方を教えてくれました。

井上先生は、私が神経学を本格的に学ぶために研修を受けた東京大学神経内科で講師・病棟医長を務めていました。臨床を非常に重んじる先生でした。一般に臨床とサイエンスは、別々のものとしてとらえている方も少なくありません。しかし、先生の考えは違います。

「臨床の疑問点を科学に昇華することが重要」

「目の前にいる患者さんが、サイエンスの真実を教えてくれる教科書」

と繰り返しおっしゃっていました。つまり、臨床とサイエンスは一直線上にあり、患者さんから得た疑問点を科学で紐解くことが、真実を見つけるために重要だということです。私は先生の考え方に非常に感銘を受けました。

患者さんの疾患を教科書に当てはめて診断していく医師もいます。しかし、それでは何も進歩しません。患者さん一人一人を大切に、しっかりと診ることで、見えてくる疑問点が必ずあります。臨床で浮かび上がってくる問いを、サイエンスで解決していける医師になろうと思ったのです。思い返すと、井上先生との出会いから臨床に対する自分の向き合い方を学んだと感じています。

一途に続けることが重要 研究に対する姿勢を教えてくれた恩師

2人目の恩師は郭伸先生で、私に研究に対する姿勢を教えてくれました。郭先生は私が東京大学神経内科で学位を取得した時の研究指導医で、現在まで長く研究を一緒にさせていただいています。郭先生は神経疾患の中で難病中の難病である孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究を、研究トレンドに流されることなく、一筋に続けてきました。約20年前にALS患者の運動ニューロンでAMPA受容体の機能異常があることを発見しました。その後、孤発性ALSのモデルマウスを作成し、このモデルマウスの分子異常と臨床症状、神経病理所見が孤発性ALSと同様であることを証明しました。長い歳月をかけて続けた基礎研究の結果、ALSの病態が明らかとなり、その成果を受けて私たちは2017年4月からALS患者を対象とした臨床治験を開始しました。まだ結果は出ていませんが、良い感触を得ており、ALSに対する有効な治療法となるのではないかと期待しています。一つの問いから、治療に結びつくまで時間はかかっても、研究の方向性を見失うことなく一貫して研究し続けることの重要性を学びました。

困難なことがあっても諦めず、他のことには流されずに、ただ一点を突き進む。疾患に対するこの姿に、とても感銘を受けました。

自分の目と手で確認すること 留学先で出会った恩師

私は、学位取得後米国Harvard Medical School・マサチューセッツ総合病院(MGH)の神経遺伝学研究室に留学し、ここで3人目の恩師Jean-Paul Vonsattel先生に出会いました。

Vonsattel先生はMGHの神経病理のチーフで、私はVonsattel先生の元で神経病理学、分子遺伝学を学びました。ここにはBrain Bankもあり全米から剖検脳が集まってきます。毎週7〜10例のbrain cuttingをして病理診断を行うという貴重な経験しました。

米国では、日本よりも多くの点でシステマティックになっています。研究においても重要だと認められた分野には、素早く資金の配分が行われる環境であり、日本とのギャップに驚きました。しかし、文化の差よりも私にとって衝撃的だったことは、恩師である先生との出会いでした。先生は膨大な数の検体を自ら顕鏡し、本当に納得のいくまでとことん時間をかけて診断していました。与えられた答えを鵜呑みに信じるのではなく、それが本当に正しいことなのか、自分自身で考え、目で見て手を動かして確かめることが重要なのだと先生はおっしゃっていました。

今でも脳画像や神経病理診断を行う上で、この教えを忠実に実践しようと心がけています。画像一枚、スライド一枚ずつに謙虚な気持ちで向き合うことで、新たな発見もあり、日々成長できると感じています。

医師として、とくに駆け出しの頃に、診療や研究に対する素晴らしい信念や志を持った医師との出会う機会に恵まれたことは、私にとってかけがえのない財産であります。

患者さんの疾患を治す医師になることは小学校1年生からの夢

私は、小学校1年生の時から、人の役に立つ医師になることが夢でした。それ以来、医師以外の人生を考えたことはなく、迷うことなく医師となり現在まで続けています。どうして、これほど一筋に医師を続けているのか。それはやはり、患者さんに満足していただけた時の「やりがい」が大きいからです。

私たち医師の満足と、患者さんの満足は必ずしも一致するわけではありません。医学的にベストである治療を行ったとしても、患者さんが求めているものと違った場合は、患者さんのためになったとはいえません。患者さんに満足していただくためには、患者さんが何を求めてこの病院にきてくれたのか、何を大切にしているのか、どうしたいのかを聞き出し、患者さんの声に寄り添っていく必要があります。

しかし、これは簡単なことではありません。こちらのペースで話を進めてしまうと、患者さんが私たちに本当に伝えたい訴えや苦しみを聞き逃してしまいます。なかなかうまくいかずに悩むこともたくさんあります。

しかし、そういったときは初心に帰り、何のために自分が医師という仕事をしているのかを振り返ります。そして、再び前を向き、患者さんの声をしっかりと拾いあげ、満足していただける医療を提供できたときのやりがいは、医師を続ける原動力、私の生きる糧となっているのです。

神経疾患は未だわからないことが多い分野です。しかし、臨床によって患者さんが教えてくれる疑問を大切にし、1人でも多くの患者さんの手助けのできる医師を育成できればと考えています。私の夢は、これまで直せなかった患者さんの病を治し、人の役に立つことです。私はこれからも、現役でありつづけるつもりですし、研究マインドを持った臨床医として仕事をしていきたいと思っています。

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  • 東京医科大学 神経学分野 主任教授

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