人として謙虚であれ 病気に対して謙虚であれ

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人として謙虚であれ 病気に対して謙虚であれ

幼い頃からの夢を叶え心臓内科学分野で研究・教育を続ける坂田泰史先生のストーリー

大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 教授、大阪大学医学部附属病院 副病院長
坂田 泰史 先生

先天性の心臓病を2歳で手術。両親はいつも医療に感謝していた

父はサラリーマン、母は専業主婦。一族に医師は誰もいません。

そんな私が今ここにいるのは、先天性の心臓病を持って生まれ、2歳の頃に手術をしたことが間違いなく影響しています。当時はまだ2歳ですから、手術を受けた頃の記憶はありません。しかし物心ついた頃から両親はいつも医療に感謝していましたし、「あなたは医療に助けられた」とよく聞かされていました。

もし健康な心臓を持って生まれていたら。もし手術を受けていなかったら。私は医者にもならなかったでしょうし、心臓の分野に進むこともなかったかもしれません。

大阪大学医学部に入り、小学生からの夢であった「医者」の道へ

幼い頃に心臓の病を手術で治してもらった—。その出来事は自然と、私の興味を心臓の分野へと向けさせました。1997年、神戸大学医学部附属病院で心臓の検診を受けていると、なんという偶然か、2歳のとき心臓の手術を執刀してくれた麻田栄(あさだ さかえ)先生に出会うことができたのです。

「是非、心臓外科医になってください」

麻田先生はいいました。もともと手先が器用ではなく、外科は苦手かもしれないとお伝えすると、「手術は手でするのではない、頭でするものだ」と教えてくれました。しかし、その後心臓外科の先生方を見ていると、どう考えても外科医に必要なものは、まず「手」ではないかと思いました。麻田先生には申し訳ありませんが、私は当初より興味を抱いていた心臓内科学の道へ進むことを決意しました。

問題解決に必要な思考回路を築いたアメリカへの留学経験

35歳のとき、米ヒューストンにあるベイラー医科大学循環器内科学へ留学。Doublas Mann先生のもと、「サイトカインによる心不全発症メカニズムの解明と、新しい治療戦略の確立」をテーマに研究を行いました。留学先に着いて1週間すると、航空券とホテルの予約表を手渡され、「これを持ってボストン大学へ。実験工程をすべて習得し、帰ってきなさい」と任命を受けました。技術習得に用意された時間はたったの1週間。私はLiao先生に四六時中ついてまわり、マウスのランゲンドルフ灌流装置を使った実験の工程を一から学びました。

ベイラー医科大学に戻ってからは、実験工程の作成に専念します。実験に値する動きを成すまでに、多くもの実験と、半年もの時間を要しました。朝から実験を始め、お昼になれば愛妻弁当(+ドクターペッパー)でエネルギーをチャージし、午後もまたひたすら実験。異国人に囲まれ、誰も答えを教えてくれない環境で、実験を立ち上げるための毎日は、本当に厳しいものでした。しかしこの留学経験が、医師として問題解決に必要な思考回路を築く大切な時間になったと確信しています。

留学は家族のつながりを強め子どもの価値観形成に寄与した

2年間のヒューストン生活は、医師としての経験以外にいくつもの恩恵をもたらしました。1つは家族のつながりです。私には妻と2人の子ども(当時2歳と4歳)がいます。留学中、異なる文化圏で支え合いながら暮らすことで、家族の絆は日々強まり、大きな結束力が生まれました。バカンスになれば、アメリカの広大な大地を車で走り抜け、圧倒的な自然を感じたものです。

日本は基本的にアジア人がほとんどの国家ですが、アメリカではヒスパニック、白人、アフリカ系アメリカ人、アジア人など多種多様な民族が当たり前のように混ざり合って生活しています。子ども2人は幼少期にアメリカで過ごしたことで、世界にはさまざまな民族・肌の色があることを、身を持って体感したようです。

2016年夏 留学先のボス、Douglas L Mann先生と一緒に

徹底的に謙虚さを意識する。そうでなければ必ず思い上がってしまう

医師という仕事は、医師免許を手にした瞬間から、患者さんや製薬会社の方々に頭を下げられたり、感謝されたりする機会が生まれます。人として「謙虚さ」を徹底的に意識しなければ、必ず思い上がってしまうでしょう。

医師は、看護師や検査技師など多くの医療従事者に支えられています。彼らがいなければ、私たちは医療など一切できない。先生と呼ばれたり、患者さんから感謝されたりするのは、自分という存在のおかげではなく、医師という仕事の持つ効力なのです。そのことを常に肝に命じておかなくてはなりません。

人としての謙虚さ・病気に対する謙虚さを教育で伝え続ける

私たちは日々の診療でたびたび典型的な症例に出会います。そのようなとき、教育で身につけた「回答」によって患者さんを治療できることは確かにあって、ある程度その病気を征服したような錯覚に陥ります。しかし病気とは、そんなに簡単なものではありません。病気に対して謙虚さを忘れると、さまざまな落とし穴に足元をすくわれます。

「この病気については、わかってきた」

そう思った瞬間がもっとも危ないのです。

人として謙虚さを徹底的に意識すること。病気に対して謙虚であること。これらは簡単なことではありません。私自身も、未だに謙虚さをどこかに忘れてしまうことがあります。しかし私は教育に携わるなかで、謙虚であることの大切さを自ら体現しながら、その意味を、後進の医師たちに伝え続けたいと思っています。

 

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  • 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 教授、大阪大学医学部附属病院 副病院長

    1993年に大阪大学医学部医学科を卒業後、同学医学部附属病院や大阪警察病院における研修医期間を経て2002年に医学博士を取得。同年より2年間、米国テキサス州ベイラー...

    坂田 泰史 先生の所属医療機関

    大阪大学医学部附属病院

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      • 血液内科
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